機械工学科

熱は温度の高い方から低い方へ流れていく性質を持っています。また、その流れ方(伝熱のメカニズムと呼んでいます)には、伝導・対流・放射の3種類があり、例えば、地球上の生物は太陽からの放射によってこれまで長い間生活してきました。

さて、ここでは人間が服を着ると暖かくなるのはなぜか、伝熱のメカニズムを考えながら説明しましょう。この場合主に働くものは伝導と対流なので放射を無視して考えます。また、違いを比較しやすいように簡単な概略の数値を入れて計算してみます。伝導で伝わる熱の量 は熱が伝わる物質に密接に関係し、その物理量を熱伝導率kといいます。おおよそでいうと、熱伝導率は気体<液体<非金属固体<金属固体の順で大きくなり、空気は約0.025[W/(mK)]です。従って、服を着ることは体の周囲に上手に空気の層を作ることだと考えると理解しやすいと思います。

図1は裸の状態で直接皮膚から外気に熱が流れる場合の温度の変化(温度分布)です。この場合、熱は対流(熱伝達ともいいます)で伝わり、熱量の式は、ニュートンの冷却の式といわれる

Q=hA(Tw-Ta)     (1)

で与えられます。hは熱伝達率といわれる数値で主に周囲の空気の流れに関係しますが、ここでは20[W/(平方メートル×K)]とし、皮膚の表面 温度Tw=36[℃]、外気温度Ta=0[℃]、A=1[平方メートル]と仮定すると

q=Q/A=720[W/平方メートル]     (2)

となります。

これに対して、綿の肌着、ポリエステルのYシャツ(それぞれ厚さd=1[W/・]、k=0.05[W/(mK)]とする)ウールのセーター(d=3、k=0.04とする)を重ね着した場合を考えます。上述の数値を仮定し、皮膚と肌着、衣類間のそれぞれに1[mm]厚さの空気層があるとしますと、温度分布は図2のようになります。即ち、図1に比べて外気に面 した温度が低下したことがわかります。この場合の外気へ逃げる熱量は、熱伝達率が同じ場合

q=20×6.3=106[W/平方メートル]  (3)

となり、外へ逃げる熱量は服を着ない場合の約15%になりますから、熱は体から逃げにくくなり寒い環境から体を守れることがわかります。ただし、注意しなければいけないことは、上の計算は衣類の中の空気が外気によって流されたりしない、という仮定の上でのものだということです。もし、セーターのままで風の強い環境のところにいると、衣類の中にとどまっている空気が流れることによって、衣類の熱伝導率が大きくなり、また、表面 の熱伝達率が何倍にもなることによって、結果的には体から流れる熱が風のない場合よりも数倍以上にも達し、例えば登山などでは凍死してしまうことなどが起こります。

図1/衣服を着ていない場合の温度分布

図2/重ね着をした場合の温度分布

図1/衣服を着ていない場合の温度分布 図2/重ね着をした場合の温度分布